写真家・今坂庸二朗の撮影スタイルはインスピレーションを受けた土地へのリサーチを積み重ね、その土地に合った撮影方法を選択することから始まります。撮影場所に入ってからは長期にわたり現場の光の移り変わりを見続け、撮りたい風景イメージを頭の中で固めていきます。細かい作業を積み重ね、今坂作品の特徴である「風景絵画を思わせる繊細な作品」が完成します。
本書には、ミシシッピ河口に広がる「バイユー」と呼ばれる湿地帯の風景写真76点を収録。この撮影で今坂が選択した撮影技法は「コロジオン湿板法」。19世紀末、フィルムが発明される前に用いられていた古典的手法です。
8×10の大型カメラに、厚さ1ミリほどのフィルム代わりのガラス板をセット、長時間露光を経てイメージをガラスに焼き付ける。すると、時間も空間も超越した独特な風景が映し出されます。
今坂の風景写真作品は、背景にある土地の文化をも映し出しています。かつてこの地域に移り住んだフランス系カナダ移民は、原住民とともにケイジャン文化を生み出しました。《Wet Land》シリーズで今坂は、ケイジャンの食生活に欠かせない食材「タマネギ」を用いて最終的なプリントに調色を施しています。こうした柔軟なアイデアも、彼の作品をより重層的なものにしているのです。
そんな今坂作品を知る手立てとなるテキストも充実。19世紀西洋絵画を専門とする美術史家キャサリン・キャリー・ガリッツ(メトロポリタン美術館所属)によるエッセイ、テート・モダン写真部門シニア・キュレータをなどを経て、現アジア・ソサエティ館長の中森康文による今坂インタビュー、今坂本人の解説による撮影プロセスも収録。
【目次】
《Wet Land》――記憶としての風景
キャサリン・キャリー・ガリッツ
インタビュー
風景写真の可能性――過去・現在・未来
聞き手:中森康文
《Wet Land》シリーズの撮影方法
本展は、日本では初となる作品集『Wet Land』の刊行を記念し、日本での未発表作品を含むオリジナルアートワークのほか、作品集にも収録された今坂の代名詞でもあるWet Landシリーズにて用いられたガラスネガ、そこから制作される大型写真作品、そして新たな試みとしてアルミを使用したインスタレーションを展示します。会場全体の壁面や床に加工を施しWet Landシリーズの世界観を表現します。さらに本展開催に合わせて、1点1点異なるオリジナルプリント作品付きの特別版作品集を10月20日(金)より限定販売します。日本未発表の作品のほか、新たな試みとなるアルミを用いたインスタレーション作品などを展示します。:
10:
https://store.tsite.jp/ginza/event/art/36725-1200031023.html
1983年、広島生まれ。日本大学芸術学部写真学科卒業、プラット・インスティチュートにてMFA取得。2007年に活動拠点をアメリカに移し、ニューヨークやパリを中心に数々の個展を成功させている。日本では表参道 ストリート アート プロジェクトでの「FENDI × Yojiro Imasaka」(2022)などの展示も話題に。
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